毎週、様々なテーマでお送りする、
Housing Column。
第 8 回
イギリス 住まい500年の旅 (2)
 前回、第一章では、500年前に生まれ今もなお生き続けている街をご紹介しました。今回は、少しとんで100年前に作られた街をご紹介します。
 18世紀後半から19世紀にかけて世界に先駆け、イギリスでは産業革命が起こり、都市部に人口が集中し、住環境の悪化が問題となっていました。そのような状況の中で、人々が快適に暮らせる街として誕生したのが、今回紹介するレッチワース、ハムステッド、ウェルウィンです。

第二章
100年前に生まれた街
レッチワース、ハムステッド、ウェルウィン

●レッチワース
〜100年前に建設が始まり郊外住宅のモデルとなった街〜


 レッチワースは、田園都市構想により生まれた街です。田園都市構想とは、19世紀にイギリスの経済学者であったE・ハワードが提唱したもので、社会活動や雇用機会など都市の良さと、田園の自然の美しさなどを融合した「自然と人間の共生」を謳った郊外型の都市づくりです。田園都市構想は、日本でも田園調布などに、その考え方が導入されています。レッチワースは当初、劣悪な住環境におかれた労働者階級の住環境の改善を目的として作られましたが、その環境のよさから価値が高まり、現在は、裕福な層が移り住んでいます。

レッチワースに住みつづける人々
 レッチワースには、単身者、子供がいる家族、子供が独立した後、老後の一人暮らしなどライフサイクルに合わせて住み替えが可能な住宅があり、レッチワースを愛している人々が街の中で住まいを替えながら住みつづけることが出きるようになっています。同じ時期に同じ世代の人々が住み始め、加齢にともない老人だけの街になるということは決してありません。

暮らしやすさはどこから来るのでしょうか?
 レッチワースの住民は、良好な住環境を維持するため街の管理会社との契約事項を守らなければなりません。建物の修理、生垣の維持が義務付けられ、建物の外観を変更したり木を勝手に変更することもできないのです。このように細かいルールを守ることは大変かもしれませんが、そのルールとそれを守る住民の努力によって、暮らしやすさと資産価値が維持されています。
写真はクリックすると拡大表示されます
2戸が1戸になっているセミデタッチドハウス。前庭やエントランスが住み手によって異なっている。
戸建て住宅。この地域ではめずらしく、生垣ではない家の外壁と合わせた木の塀。
奥は単身者用住居。


●ハムステッド・ガーデンサバーブ
  〜都心から近く、今や高級住宅街〜


大きなセミデタッチドハウス。
中央から左右に分かれている。
 レッチワース誕生後、1906年に計画されたのが、都心から北へ8kmロンドン市内への通勤圏内にある街、ハムステッドです。
 地区内にハムステッドヒースという丘や森・公園があり、街路樹や広場、前庭、整備された生垣、セットバックされた住宅により落ち着いた住宅地となっています。計画当初は様々な階層が混在する構想だったのですが、都心に近く環境が良いことから、現在は中上流階級以上の居住者が多いようです。自動車の所有が普及する前に計画されたため、当初駐車場は作られていませんでした。その後、車社会が到来しましたが、住宅の敷地内に駐車場を作る場合はトラスト(街の管理組織)に許可を得なければならず、また庭や生垣も手入れも義務づけられ、美しい街並みが保たれています。


●ウェルウィン 〜車社会の到来〜

美しく刈り揃えられた生垣。左の奥には駐車スペースがある。
敷地内に駐車スペースがなく路上駐車。違法ではない。
集合住宅の前に
共同の駐車スペースがある。
 1919年に計画され、ロンドン北34km、ロンドン中心部から鉄道で約20分の街です。
 車社会の到来により駐車場・車庫が考慮され計画されています。駐車場は住宅のファサードや前庭を阻害しないようデザインされています。また、計画当初は、全ての建物設計は設計を担当した設計者スワソンの承認を得なければならないという原則があり、また建物の四方すべて美観を保つという彼の主張も規則となって、街全体の美しい統一感が保たれています。
 この地域は住宅地として人気が高く、1990年代にイギリスで不動産が下落したときでも影響がなかったといわれています。
 
 
 今回紹介した街は全て100年前に作られ、今も現役で、資産価値を高め続けている街です。その価値を維持し高める。そこに住む人々の意識と、景観を守るルールとその管理。そして、さらに大切なことは、100年後の街を意識して街づくりをスタートし、その構想に沿ってしゅくしゅくと100年間維持管理を続けているということです。100年、愛し愛され続けることができる街を作る。それは、100年間壊れない建物を作る技術をはるかに超えたもののようです。
住宅の前面のデザインを崩さないように建物の間に車庫がある。
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