毎週、様々なテーマでお送りする、
Housing Column。
第 18 回
おいしいキッチンのつくり方
キドサキナギサ (一級建築士)
●収納についての誤解

 私はどうも片付けが苦手らしい。仕事場では打合せテーブルの上こそなんとか空白を保っているが、コンピュータのまわりにはつくりかけの模型や書きかけの図面、データがはいったままのデジカメなどが、とても整然とは言い難い状態で層をなしている。出したら「すぐに」しまう、っていうことがなかなかできない。キッチンでも、料理上手は片付け上手、料理が完成したときにはキッチンもぴかぴか、なんてドイツ人じゃないから無理だし。
 あ、でも誤解しないでいただきたい。整理整頓は大得意。本も洋服も食器も、およそ棚やラックにモノをしまうことにかけては、収納量はひとさまの2割増。隙間を立体的にモノで埋めていくのは、建築家なので、それはもう。目が隙間を認知したら自動的に手が動いてそのサイズのモノを入れてゆく。それもただ並べただけでは使えないから、内容の分類は必須。そしてなにより大事なのは、並んで美しいこと。本は分野ごとサイズ別に、洋服は部位ごと色別に。思い起こせば幼稚園児の頃すでに、家の隣のお菓子やさんの店先で、ガラスの平台のなかのチョコレートやキャラメルの箱をせっせと並べ直していたのだから、整理整頓好きは年期が入っている。ま、頼まれもしないのに店先の商品を並べ替える5歳児というのは、どう考えても不気味だが。
撮影:上田 宏
 というわけで、私のなかでは「片付け」と「整理整頓」は別物なのである。そう思って周囲をみると、世の中の人は使ったモノをささっとしまえる「片付け上手」と、しまう場所のルールや仕組みを考えたがる「整理整頓好き」に分かれるようである。そして往々にして前者の住まいは掃除が行き届いているのに雑然とした印象を、後者の住まいはセンスはいいのに散らかった印象を持たれがちである。「片付け上手」さんは待てないのだ。こっちとあっちのサイズを揃えて並べて置く、より、いまここに出ているモノをとにかくしまってしまいたい。反対に「整理整頓好き」さんは後回し派だ。どうせならあれもこれも後で一気にまとめてキチンとしたい、結果、いま散らかっているのは仕方ない。どっちも駄目じゃん、なのである。結局、整理整頓した上でこまめに片付けないと、美しく快適な暮らしが手に入らない。そしてその両方ができる人はとっても少ない。

●欠点を克服しない収納

 じゃあ、どうやったら綺麗に楽しく暮らせるのだろう。私はやっぱり苦手な「片付け」を克服しなければならないのだろうか。でも自分のなかにない要素を必死に身につけようとしても、楽しくは暮らせないと思うんだけど。だいたい、キッチンなんてモノをつくる現場だよ、クリエイティヴで活気ある場所が整然とできるわけがないじゃない・・・と思いたい自分がいる。でもちょっと待って。建設現場では「良い現場は片付いて」いて、壁の標語はたいてい「整理整頓」だ。明日使う材料が1週間も前から雨ざらしになっていたりはしないし、電気のコードやロープはいつもくるくるとコンパクトに巻かれていて間違っても人が足をひっかけたりはしない。職人さんたちは使う道具だけを車から出してきて、一日の終わりにはまた車に積んで帰って行く。現場にはモノも人も溢れているけど、けっこうすっきりしている。必要な材料や道具は、目の前の見えるところに積まれている。複数の人が時間と場所を共有するときは、「見えれば (いちいち言わなくても) わかる」のがルール。
 そう、複数の人が使うからルールが必要になる。だって一人暮らしのときは私の部屋もかなり片付いていた。ほかに散らかす人がいなかったからだ。自分が出したモノはそのまま、そこにある。戻す場所もそのまま空いているから、そこに返せばいい。誰かが勝手に別のモノを入れておいたりしない。じゃあ自分のモノは自分で管理、すればいいのかな。でもキッチンにあるのはほとんどが誰のモノって特定できないものばかり。かたちや大きさも、本のようには揃わない。
 キッチンまわりのモノを使いやすさが「見える」ように収納して、なおかつ綺麗にセンス良く暮らすには、大きく2つの方法がある。ひとつは収納のかたちを揃える方法で、これは「片付け上手」さん向き。サイズ別、機能別といった分類よりもしまうことを優先しがちな「片付け上手」さんには、収納棚のサイズを統一して容れ物のほうで「きちんと感」を演出。少々ばらばらに収納しても、棚がリズミカルに並んでいるので雑然とした印象が消され、どこになにがあるかも一目で把握。この場合は引き出しも透明なケースを棚に入れて、棚だけが繰り返す美学をキープしたい。もうひとつはバックヤード方式。既製品のラックを並べて、その手前に小さなスペースを設けた納戸型の収納で、モノを放り込んで扉を閉めればとりあえずっきり。あとは時間のあるときに並べ直せるので「整理整頓好き」さん向き。私も最近は納戸の一部を食品庫にして、キッチンには最小限のモノを出して置くようにしている。

●収納のための収納でなく

 収納はあくまでも、生活スペースが快適でセンス良く暮らせるようにするためのバックアップである。だから気楽でカンタンでかっこいい収納があれば、おのずとキッチンはおいしく作って楽しく食べるための場所になる。次は、そんなおいしいキッチンの実例を通して、楽しい暮らしをサポートする空間づくりを考えたい。

一級建築士
東京都生まれ。城戸崎和佐建築設計事務所を主宰。
アフリカの魚市場や九州の保育園から小さな家具まで、楽しい生活のサポーターとして設計活動中。
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撮影:平井 広之
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撮影:上田 宏
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