毎週、様々なテーマでお送りする、
Housing Column。
第 28 回
【晴海トリトンスクエア物語 (11)】
世界初の動く歩行者専用橋「トリトンブリッジ」

 晴海トリトンスクエアの前には、約100メートル幅の運河があります。その名は「朝潮運河」。この運河には、豊洲側から、「朝潮大橋」「朝潮橋」「晴月橋」「黎明橋」といった橋がかかっていて、主に引き船などの働く船が行き来しています。トリトンタワーや下町風情の残る町並みが水面に映るその風景は、トリトンのもうひとつの魅力といっても過言ではないでしょう。トリトンで働く人の中には、「運河を挟んで対岸から見る晴海が一番お気に入り」という人もいるほどです。
 今回は、晴海トリトンの玄関口とも言える、“運河にかかる歩行者専用橋”についてご紹介しましょう。実は、黎明橋に平行してかかるこの橋は、晴海トリトンスクエアという新たな街づくりに大きく貢献しているのです。それは世界初の動く歩道をそなえた橋、その名も「トリトンブリッジ」!

●晴海トリトンの前に立ちはだかった運河


 晴海トリトンスクエアの計画にあたって、地下鉄大江戸線「勝どき駅」から徒歩4分という便利な立地であっても、“黎明橋 (晴海通り) を使って運河を渡らなければならない”という条件は、やっかいな存在でした。雨風の強い真冬などは、吹きさらしの橋を渡るのは楽ではありません。銀座からすぐといっても、晴海トリトンスクエアの予定地は海に浮かぶ島。いくら風情があっても、不便であっては暮らしやすく人が集まる豊かな街にはなりません。月島川寄りに歩行者専用橋をつくる計画もありましたが、バブルの崩壊もあり、事業費削減のために、この構想も取りやめとなっていました。
 これまでご紹介したとおり、晴海は行政主導の再開発ではなく、地権者が主体となった民間再開発組合が先頭にたって行っていました。そこで組合では、『黎明橋の歩道に屋根をつける』という、コストをとことん切り詰めた案を考え出し、中央区の都市計画課に提出したのです。しかし、黎明橋のある晴海通りは都道であり、都では道に屋根を架けた前例がなく、また古い橋なので、屋根を架けることにより、強風に対する強度に問題が生じるとして却下されてしまいました。
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●みぞれ雪が決意させた「動く歩道専用橋」への思い

 組合の担当者は悩みました。屋根をかけるには、黎明橋に平行するカタチで、新たな歩道専用橋をつくるしかなく、区道として認定されなければなりません。さらに、雨風に強く、雪の日も、滑りにくいという条件。そこで出されたアイディアが「動く歩道」でした。しかし動く歩道の専用橋は世界でも前例がありません。イメージスケッチはつくったものの、漫画のようであり、“つくれる”という確信はありませんでした。
 様々なデータを調べ、アイディアを検討するために残業が続いていた真冬のある日のことです。その時、黎明橋はシャーベットのようなみぞれ雪に覆われていました。吹きさらしの橋は寒く、滑りやすくなっています。さらに横を通るトラックがみぞれ雪のしぶきを担当者にあびせました。
 「やはり、屋根のある橋が必要だ。こんな日でも滑ることのない橋、身体の不自由な人でも、子供でも、安心してトリトンに渡ることが出来る橋にするには、動く歩道しかない!」
 決意を新たにした担当者は、イメージスケッチを持って、根気よく中央区に掛け合うことにしたのです。

●認定された、世界初の「動く歩道専用橋」

 中央区の反応は良かったものの、運河の上は東京都港湾局が管轄する公共の空間であり、また都道を管理するのは建設局です。実現するためには、様々な部署との折衝が必要となりました。
 説得のために、全国の主要な動く歩道の事例をリストアップし、実際に現地を調査し、維持管理などを含めたあらゆる研究を重ねたことは言うまでもありません。また橋の上に動く歩道をつくるという世界初の試みであると当時に、確実な強度と安全性の確保が重要です。万が一大地震の発生によって黎明橋が落下しても、動く歩道は残って人々が運河を渡って避難出来るようにする事を目標に、その設計に半年の時間をかけました。そして何度も行政側に足を運び説得をしたといいます。その甲斐あって区道として認定され、建設費の一部に再開発事業費の補助金を受けることになったのです。
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●ついに完成! 夢の架け橋「トリトンブリッジ」


 平成11年7月、ついに朝潮運河に杭が打ち込まれました。12月には鉄骨骨組みがほぼ終わり、晴海トリトンスクエアグランドオープンを2週間後に控えた翌年3月末に引き渡されました。そして、この夢の架け橋は、地元住民等の関係者からの公募により、地域関係者みなさまに広く愛され続ける、大切な橋になってほしいとの願いをこめて決定された「トリトンブリッジ」という名称で、4月1日よりいよいよ使用開始となりました。
 一枚の夢のイメージスケッチはついに実現したのです。街を活性化する玄関が出来ました。担当者や地権者である組合の努力もありました。区や国の理解もありました。でも、完成までの道程を見ると、街づくりで何よりも大切なのは、コミュニケーションだという事がわかります。
 現在は、世界初の動く歩道を渡って、毎日多くの人がトリトンを行き来しています。もちろん、雨の日も風の日も、寒さに震えることはありません。
 地域、区、都、国が、一体となって街づくりに参加した象徴とも言えるこの橋をぜひ見に来てください。全長94メートル、ガラス張りのチューブ型の橋から見える運河も風情があっていいものですよ。

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