毎週、様々なテーマでお送りする、
Housing Column。
第 33 回
リゾート空間の魅力
非日常性の演出 2
東 利恵 (一級建築士)
 「星のや軽井沢」が2005年7月にオープンした。前身は百年の歴史を誇る星野温泉である。国立野鳥の森と別荘地の山に囲まれた川のながれる谷間に位置しているが、決して風光明媚な場所ではなかった。
 この場所にこれからの百年を見据えた新しい形のリゾートを作るためには、これから作る建物や庭それ自身が美しい風景にならなければならないと私たちは考えた。
 一方では、施主である星野リゾートの社長から「西欧に媚びないものであってほしい」と注文を受けた。
 西欧文化は19世紀末以降日本に流入してきたが、特に戦後の日本ではアメリカ文化を中心に日本の伝統文化を駆逐する勢いで入ってきた。しかし、西欧の歴史からみれば、古典つまり日本でいうところの伝統的様式に対して19世紀末から20世紀にかけて近代化、モダン化という大きな変革が起こった。日本では、西欧化とモダン化が一緒におこってしまったために、西欧化イコールモダンのイメージがあるが、決してそうではないのである。
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水景
 日本の伝統的建築や文化を大切にしながら近代化、現代化していったらどのような建物や集落ができるか、「星のや」では、そのようなイメージを持ちながらデザインをした。あくまでも、伝統的な手法を固持するのではなく、また、古い民家を移築するのではなく、健全に日本らしさが進化していくことをめざしたのである。
 谷の集落というテーマはこのような施主とデザインチームの考えから生まれてきた。新しさとともにどこかに懐かしさを感じる集落になってくれればと考えたのである。
 
 まず、ここでは、最低限のサービス用の小型自動車以外は敷地内から車を排除することから始めた。車用の道路というのは実は人が心地よく歩くのには広すぎる。路地と呼べる程度まで道幅を狭め、車よりも人を中心とした外部空間を作った。
山路地部屋
 何よりも非日常感を演出しているのは、リゾートの中心に流れる池であろう。これは、大正時代から星野リゾートが取り組んでいる水力発電用の池でそれを景色としても取り込んでいる。水の量は取り入れ口で調整されているため、水位を気にすること無く部屋と水面を近づけることができた。
 客室は個々を独立型に近いように分棟にして、二階は木造の屋根をかけている。一階と二階が違った平面で重なっているため、ずれた部分がテラスになったり庇になったりし、また、20種類以上の多様な平面のバリエーションが積み重なったり、ずれたりしながら集落としての風景を作っている。
 インテリアでは、日本の色を意識した塗壁と手透きの和紙を中心にまとめている。現在の日本の住まいでは白いクロスが多い中、色を使うこともまた、非日常感を演出する要素となった。天井は3mを基準として、最低でも2.4mは取るようにしている。
床座リビング
 マンション生活になれた人は最近床の段差を経験しなくなっているが、日本の家屋では案外床のレベル差がある。例えば玄関などは、かなりの段差がついていたりする。それによって、視線の高さのずれを計算し空間の柔らかな区切りを作っていたりする。ここでも、リビング空間と寝室空間の間は床の高さを変えることで空間をやんわりとわけるように考えている。(もちろんバリアフリーの部屋も用意してはいるが。)
 
 最近、日本の住まいは標準化される傾向にある。マンションの平面も建て売りの間取りも広さが違うことはあっても大きく特徴に差がない。標準的な考えからはずれたものを作ると売れないかもしれないというリスクを避けるためだ。
 しかし、リゾートは他と一緒ということは魅力にはならない。非日常の空間を作るということは、他では経験できない空間を体験できることに他ならない。こういった非日常のリゾート空間の要素を、住宅においても、標準的間取りから離れて作り出すことができれば、日本の現代の住まいはもっと魅力的なものになるだろう。

一級建築士
大阪生まれ。日本女子大学住居学科卒業。東京大学大学院建築学専攻修士課程修了、コーネル大学大学院修了後、現在は、東環境・建築研究所 代表取締役。住宅、ホテルの設計など幅広く活躍中。主な作品:星のや軽井沢、トンボの湯、大原のアトリエなど。
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