毎週、様々なテーマでお送りする、
Housing Column。
第 54 回
家事の“みかた”
「オープン・ワードローブ」
木下 庸子 (一級建築士)

 家事は住まいにおいて生活を営むための必須行為である。その内容は、かつては「家事のさ・し・す・せ・そ」なる言葉により、裁縫、しつけ、炊事、洗濯、掃除の頭文字を用いて表されていた。これらの家事労働は近代、わが国の核家族社会では専業主婦の存在により支えられてきたのである。しかし現代では女性の社会進出が盛んとなり、主婦とキャリア・ウーマンというディコトミーに悩む女性も少なくない。家事労働の軽減化を図らなければ生活を切り回していけないというのが実態というのもよくわかる。とはいえ、いくら軽減化を図るとは言っても炊事、洗濯、掃除といった三つの基本作業は生活する上では必要不可欠で、これらとどう向き合うかは現代家族の生活と住まいづくりにおいて重要な課題となっている。
NT 1
 
 家事労働をもう一歩割り切って考えるなら、上記三つの基本作業の中でも炊事は思い切って外食やデリバリー・サービスに頼ることで軽減化が可能である。また掃除にしても住まいの清潔さや快適さを多少犠牲にすることをやむを得ないとすれば、忙しい時は後回しにしても生活は成り立つ。しかし洗濯はというと、さすがに何から何までドライ・クリーニングに頼るわけにはいかないし、だからと言って全て使い捨てるというわけにもいかないので、生活していくうえで一番不可欠なのではないだろうか。でも洗濯という作業は実は、洗濯ものを洗って、干して、たたんで、しまうという過程があり、そのプロセスは以外に時間を要するということは、主婦に限らず一人暮らしをしたことのある者ならわかるだろう。私たちはそこで、洗濯という家事労働のなかから「たたんで、しまう」という作業を省くことで少しでも家事負担の軽減につながらないかと考えた。そして行き着いたのが「オープン・ワードローブ」という考え方である。
 
写真はクリックすると拡大します。
NT
 このオープン・ワードローブは、かつて設計した働きざかりのプロフェッショナルカップルと二人の子供のための住まい「NT」において初めて試みられた。夫が大学教授で妻が医者という超多忙なカップルで、いわゆる専業シュフ (主婦/主夫) が不在の家族であった。設計を依頼されて家族の暮らしぶりを拝見した際に最も印象に残ったのが、南に面した居間を占領していた洗濯ものだった。「洗濯はしないと生活できないからする、そして干すまではするけれども、たたんで、しまう暇がないので乾いたものから着てしまう」という。そんな建てぬしの本音の説明を聞くと、あまりにも合理的かつ生活実感に根ざした、いわゆる「衣類は洗濯したらきちんとたたんでしまう」などというような「決まりごと」にはこだわらない、というよりはこだわってはいられない暮らしを見た思いがした。
 そこで私たちが提案したのは2階の日当たりのよい場所にこの家のオープン・ワードローブを設けたプランである。単純なことなのだが長いハンガーパイプを吊り下げ、物干し兼ワードローブとした。このオープン・ワードローブは洗濯機の置いてある脱衣室とバスルームに通じているので、脱いだものがそのまま洗濯機に放り込まれ、洗濯されて乾かされ、乾いたものから着て行くという一連の作業が効率よく行われるようになっている。ワードローブは大型引き込み扉を開けるとテラスと一体化するので、全面的に外気に開放された洗濯ものの乾燥室として機能する。また、家族全員のクローゼットもこのオープン・ワードローブに造り付けられているので、家族メンバー各々の身支度は全てこのワードローブで整うのである。
 
 NTで誕生したオープン・ワードローブはその後「TO」という住宅でも引き継がれる。TOの建て主もまた、夫婦ともにプロフェッショナルのカップルであった。敷地が都市型の狭小地だったため3階建ての住宅となったが、接地階には庭が取れなかったので3階に中庭を設け、そこに面して水周りを設置した。脱衣場内に洗濯機が置かれており、ここでも脱いだものはすぐに洗濯できる。オープン・ワードローブは3階の、階段と室3の間に設けられた。NTほど面積的な余裕がないために、通路空間がオープン・ワードローブをも兼ねている。ここにもステンレスのハンガー・パイプが天井から吊り下げられており、そこに洗濯ものを掛けて干すように考えた。階段の上部には自然光をもたらす開閉式のトップライトが設けられているので、これを開けることで通風が得られ、衣類が乾いたらそのまま着ていくことができる。この住宅でもオープン・ワードローブは家事の強いみかたとして活躍してくれている。

一級建築士
1956年 東京都生まれ、1977年 スタンフォード大学卒業、1980年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了、1981〜1984年 内井昭蔵建築設計事務所、1987年 設計組織 ADH 設立、2005年〜2007年3月 UR都市機構 都市デザインチームチームリーダー、現在 工学院大学教授。主な作品:NT(1999)、白石市営鷹巣第2住宅 シルバーハウジング(2003)、アパートメンツ東雲キャナルコート(2005)。主な著書:「孤の集住体」(共著、住まいの図書館出版局、1998)、「集合住宅をユニットから考える」(共著、新建築社、2006)。
2.テラスと一体化するオープンワードローブ
3.ブリッジから見たオープンワードローブ
TO
4.通路空間にあるオープンワードローブ 5.中庭
1、3 藤塚 光政
2 北田 英治
4 木田 勝久
5 坂口 裕康
All Rights Reserved Copyright
Harumi Design Center