- 第 77 回
アートとデザインの境界線
細井 絵理子
昨年来、「アートとデザイン」というキーワードに注目しています。そのきっかけはある展覧会でした。そして、気が付いたのです。「art/アート」と「design/デザイン」という、似て非なるこの2つの分野の境界が曖昧になり、重なりあって新しい形が揺らめきながら生まれ出ようとしていることに。そしてそのことによって、私たちの住まいの中にも変化が起きていることに。
アートとデザインと新しい空間の概念
どこまでがアートかデザインか。日本における現代アート熱
2007年末から2008年初頭にかけて東京都現代美術館にて大変興味深い展覧会が開催されました。「SPACE FOR YOUR FUTURE アートとデザインの遺伝子を組み換える」という、すぐには理解しにくいタイトルがついたこの展覧会は、その内容も一風変わっていました。アート、建築、グラフィック、ファッションなど様々なジャンルで活躍する13カ国34組のアーティストやクリエイターたちが、観る人を巻き込み、体験、体感させる参加型展示をすることで、アートやデザインの枠組みを超える「新しい空間」の概念を提示しようとするものでした。キュレーターの長谷川祐子さんがNHKの番組で紹介されたことも手伝ったのでしょうが、私の予想に反し、大変多くの来場者があり、特にお子さんを連れた若いご夫婦の姿を多く目にして驚きました。世界的な美術館ブームの中、日本もここ数年で多くの美術館がオープンしましたが、それを支える一般の方々の「アート熱」の高さを強く実感しました。
21世紀の「空間」はどうなる?
この展覧会で、まず私の心を大きく捉えたのが、美術展などで必ず入口近くに展示される展覧会趣旨を記した「はじめに」の言葉でした。
今あたらしい表現はどこからうまれているのでしょうか。
多層なネットワークによってさまざまな情報が広く共有される21世紀において、引用や折衷のポストモダンは過去のものとなり、創造の現場には新しい変化が起きています。
「space」を単なる物理的な空間としてとらえずに、個々人の感覚や思考と結びついた未来を生み出す新しい空間概念として再構築することを試みました。
(「はじめに」より抜粋)
モノを集め、モノに囲まれることで満足を覚えた20世紀のインテリアから、どういうスタイルで自分らしい生活を楽しむか、空間に人と人とのコミュニケーションを求める21世紀に入って、インテリアはどう変化するのか、、、というのが、私の現在のテーマであり、最大の関心事でした。少し、難しい表現になってしまいましたが、別の言葉で表現するならば、20世紀には○○スタイルという風に流行のスタイルが多く生まれました。例えば「カントリースタイル」や「北欧モダン」、「ZENスタイル」がそれです。スタイルを構成する統一のイメージのエレメント(要素)を集めれば誰でもそのスタイルを実践出来、それで満足できる時代でした。けれど21世紀を迎えようとする1998年頃から、「エクレクティック/折衷的」という言葉が大きなキーワードとして登場しました。単純な1つのスタイルではなく、複数のスタイルを折衷するという高等テクニックを必要とするものです。これは、一般の方にはなかなか難しい概念で、2つの異なるインテリアスタイルを単純にミックスするだけのものとして捉えている人も多かったようです。しかし、本来の意味においては、そこに「個性」というスパイスが加わらなければ意味がなく、「自分らしさ」「オリジナリティ」が重要だったのです。
そのような流れを経て、その先はどうなるのだろう?というのが私のテーマだったのですが、その答えをあの展覧会の「はじめに」の文章の中に見つけたような気がしたのです。
アートとデザインの境界
従来、機能を備えた「デザイン」と、作り手の内からの叫び、メッセージとなる「アート」は目的そのものが異なる物でしたが、最近、インテリアやプロダクトデザインを用いて表現するアーティストが増え、また、人気デザイナーの家具がオークションなどで現代アート並みの価格で売買される現象が起きています。アートとデザインの境界が急激に、まるで滲むように曖昧になってきているのです。特に海外のアーティストの作品の中にその現象を見ることが出来ます。テキスタイル・アートとして紙ひもを用いてオブジェを創作。椅子やシャンデリアのような作品を発表したニチクル・ニムクラー氏(フィンランド在住のアーティスト)やギャラリーの中に「家」を建てたアーティスト、サイモン・スターリング氏は、解体して移動し、再び建てるなど、プロセス重視の作品発表をしています。
一方でデザインの世界では「リミテッド・エディション」という分野が台頭し、国内外で高い注目を集めています。リミテッド・エディションとは、現代の人気デザイナーに自由に表現させる限定品のことです。1点ないしは数点のみ製作され、実際に機能する椅子や照明器具といった「プロダクトデザイン(工業デザイン)」でありながら、アートのように高価で、希少価値が高いデザインのことです。また、デザイン・オークションも日本で開催され、注目を集めるようになっています。2007年11月に開催された「コネクト」は日本初のデザイン・オークションで様々な新旧のインテリアが約200点を出品されました。2008年の秋に開催されたインテリアイベント「Design Touch」でも日本を代表するインテリアや建築家の作品が出品されたオークションが催され話題になりました。このようにインテリアがアートのように人々の関心を集め売買される時代になったのです。
「自分らしさ」を表現する楽しさ
コレクションと住む

- パリの展示会で見つけた私のMy collection
アートとデザインの境界線が曖昧になり、人々の関心がこの2つのキーワードに向く背景には、いくつもの要因が重なっていると思いますが、そのひとつの要素として、冒頭で触れた「エクレクティック」があると考えます。エクレクティックなインテリア・デザインを考える時、重要となる「個性」というスパイス、「自分らしさ」「オリジナリティ」をどう表現するか、ということのひとつの答え、手法として、「コレクションと住む」があるからです。パリのギャラリーオーナーでリミテッド・エディションの仕掛人でもあるディディエ・クレゼントウスキー氏はこう言っています。「楽しくて、驚きに満ち、夢のある住まい。明日へのエネルギーを感じられるポジティブな感覚の家に注目。「夢のあるもの」が今、求められているのだ。」と。
「コレクションと住む」とは、陳列棚にきれいに並べるコレクションルームを作ることではありません。食事をするダイニングルームや友人や家族と語り合うリビングルーム、疲れを癒すベッドルームなど、日常の生活空間の中に自由な発想で自分が愛する様々なモノを置き、飾り、使うことなのです。そこにルールはありません。「自分らしさ」を表現するアイテムとして、アートやデザイングッズのコレクション(趣味で集めた様々なもの。高価なものでもチープなものでもそれは自由)を身近に置いて、「生活を楽しむ」こと。それが「コレクションと住む」醍醐味なのです。
コレクションを探しに出かけよう
東京という街は本当にすごいところだと思います。年に何回か海外の展示会や市場調査に出向きますが、東京のパワーはパリやN.Y.よりも上だと回を重ねる毎に思います。「アート&デザイン」の分野に関しても東京は進化しています。原宿や表参道など感度の高い人々が集う街には、「コレクション」を提供してくれるショップが幾つか登場し始めています。N.Y.の有名な美術館のミュージアムショップやインテリアショップ、アートギャラリーを気負わず散歩がてら覗いてみるのも楽しいものです。某人気のセレクトショップでは、ファッションではなく、東京のアート文化を発信するフロアを昨年末オープンさせました。日常生活の中に溶け込むように壁やデスクに様々なグッズやアートが置かれています。これらのショップを巡りながら、「自分らしさ」を演出してくれる「アート&デザイン」を見つけて、自宅の中を「楽しむ空間」に変えてみませんか?
さあ、街に出て、自分好みのアイテムを探しに出かけましょう。 |