- 第 89 回
接点の風景【前編】
- 武井誠+鍋島千恵/TNA
列車の旅は楽しい。
自分はただ座っているだけなのに、風景がめまぐるしく変化してゆき、いろいろな角度から、思いもよらない景色を眺めることができます。飛行機や車と違って、川面の上、海岸線、海の中、峡谷の空中、など普段足を踏み入れることのない場所に連れて行ってくれます。そういう、日常とは少し違う体験を、気づかないうちにさせてくれるのが、列車の旅の醍醐味なのだと思います。
そんな列車の旅ですが、ヨーロッパを旅していて気になり始めたことがあります。大小の駅に関係なく、ホームに降り立とうとした時、重い荷物を下ろそうとする乗客を、皆で手伝っている風景です。
日本では、ホームと車両の間に段差がなく、スムーズに荷物を上げ下げすることができるので、その光景は見慣れないものでした。その親切な行為に心が動かされたということではなく、どうしてこのような風景が生まれるのか、すなわち列車とホームの関係が気になったのです。

- 日本のホーム
日本では列車という移動空間に対して、いかに、安全でスムーズに乗車することができるかを考えています。「動く空間」(列車)と「動かない空間」(ホーム)の間をできる限り、ギャップが生じないようにつくられています。すなわち、列車が「停まっている」状態に主眼を置いているのです。
ですから、本来はギャップを生じないように作られたはずの列車とホームの関係が、列車が停まっていない時は、ホームと線路との段差が生じる訳で、大きな隔たりのある関係へと変化します。

- スイスのホーム
写真(右)のようなホームはというと、列車がたまたま停まったところの脇に、人の乗り降りするスペースを確保し、それをホームと呼ぶ、といった感じでしょうか。列車は街にお邪魔して、乗り込んできている感じがします。これは、古くから変わらぬ街並みを維持しているからでしょうか。ですから、当然車両との段差はそのままで、「どうぞ自由に乗り降りして下さい」というように、簡易なステップがついているだけです。
ホームから列車が出てゆくと、そこには2本のレールだけが足跡のように残ります。それは、あたかも「停まっていない」時を意識したかのような、振る舞いをしています。本当にバリアフリーを考慮する必要があれば、地面との段差を無くすように、床が地面すれすれまで低くなっている車両を走らせています。列車のほうが、街に寄添うように、その姿を変えてゆくのです。
勿論、島国日本の列車と、さまざまな国を横断する列車と、それらとホームの関係を同じ水準で比較するのには無理があります。しかし、この一見建築とは関係ない、列車とホーム、そして街との関係性はとても興味深いことです。そういった、ものとものとの「接点」の連続が、建築を成り立たせていると言っても良いからです。
建物でいうならば、車両の出入り口が玄関で、ホームが敷地、改札口が門扉といったところでしょうか。私たちはこのような、さまざまな接点の新しい在り方を示すことで、より豊かな建築をつくりたいと考えています。
最近、クライアントさんから「この敷地の魅力を最大限に生かす建物を考えて頂きたい」という言葉をよく頂きます。それは、敷地と建物の魅力ある関係に興味があるからだと考えています。

- 直島の道端
列車と建物で決定的に異なる点は、「基礎」の有無です。動かないことは簡単に作り出すことができますが、それゆえに地面との固定方法はいろいろな方法があると思うのです。
右の写真は、直島(香川県)の道と建物の接点の写真です。建物の基礎が道路際の腰掛になり、その腰掛が、道路の縁石の代りをして、建物を保護しています。どこまでが、道路なのか基礎なのか、どこからが外壁なのがわからない、この一体感のある風景は魅力的です。
「基礎」の在り方、すなわち「接点」の在り方を次回、私たちの設計した建物を紹介しながら考えてゆきたいと思います。(つづく) |