- 第 90 回
接点の風景【後編】
- 武井誠+鍋島千恵/TNA
「輪の家」
軽井沢で週末住宅である「輪の家」をお披露目した時のこと。同じ別荘地内に住む、ご近所さんの一言がとても印象的でした。
「私の家にはリビングから連続したデッキがあるけれど、そこでバーベキューを楽しむどころか、寒いし、虫が多くて、結局、窓を閉めてしまいます。室内とデッキを連続して使うのは、ごく限られた期間です」「だから、こうやってデッキが無くても、全く問題ない」と。
「輪の家」には別荘には必ずと言って良いほどあるデッキがありません(建物から離れたところにはありますが・・・)。理由はとても簡単で、なるべく建物を細く高くして、木をできるだけ伐採せずに森を建物の際、ぎりぎりまで残しておきたかったのです。デッキを室外に延長してつくっては、逆に森が建物から離れてゆく気がしたのです。
家の中に居ながらにして、森の中に佇んでいるかのような場所を作るために、ガラスを多く使って、ガラスの輪のような外壁にし、出来るだけ多くの森の木々との接点をつくろうと考えました。敢えて足元の基礎を小さい面積にし、高く建てようとすることで、結果的に、この建物を建てるにあたって伐採した木は3本で済ませることができました。後から聞いた話で、この本数は別荘地内で最小記録ということがわかりました。

- 輪の家の外観。森の中に溶け込むように建つ。

- 輪の家室内から外を見る。森の中に投げ出されたよう。
「廊の家」
また、同じ週末住宅でも地面の様子が変わると、建物の基礎の在り方も変わってきます。
「廊の家」の建つ敷地は、傾斜が45度もあり、人が立つのもやっとの勾配です。前面道路が崖下にあるので、崖を登ってアプローチしなければなりません。下から敷地を見上げると、森の向こうに山の峰から峰へと続く尾根で切られた空が広がっている風景が印象的で、なんとかその風景を残しつつ、崖との豊かな関係をつくりたいと思いました。

- 廊の家の外観。崖下のアプローチからの見上げ。建物の間を崖が連続してゆく。
そこで、建物を崖から張り出すときに、空間を細長く廊下状にし、渡り殿のように空中に掛け渡すことにしました。そして、そのまま地面に埋もれて、反対側でまた地面から出てくるような回廊状の空間にしました。
回廊は、場所ごとにその幅を微妙に変化してゆきます。二つに分かれている基礎は木の根のように地面に食い込んで、跳ね出し部分を支えています。下から見ると、その間から山の稜線を垣間見ることができ、この崖を魅力的に見せてくれます。
一旦、建物に入ると、人は同じ高さを水平に移動してゆくので、崖の中腹に立っているかと思えば、森の梢の上に佇んでいたり、斜面に沿って寝そべって入浴してみたり、洞窟の中で休んでみたりと、山との様々な距離の変化をいつのまにか体験していることに気づきます。

- 廊の家の室内。
廊下状の空間は、その用途によって幅が変化しながら連続している。
こうして見てくると、建物の基礎の在り方、すなわち自然との接点が、週末住宅ではそこに暮らす人の空間体験に大きく関わっていることがわかると思います。
しかし、建物に囲まれ自然との接点がもちにくい、都心の住宅でも周辺環境との距離のとり方次第で、魅力的な建物になる例を挙げたいと思います。
「カタガラスの家」
「カタガラスの家」は4方向を建物に囲まれた典型的な旗竿状敷地にあります。当然、どの方向にも景色がないと言っても良いでしょう。
そこで、隣地境界線を挟んで、こちらの外壁と隣の外壁のあいだは、光井戸のようになるので、昼は光を中に取り入れ、夜は生活の光がぼんやり外に漏れるように型板ガラスで覆いました。

- カタガラスの家の外観。建物4方を囲まれていることがわかる。

- カタガラスの家の内観。外周は光の壁で覆われている。断熱性能を保ちながら光に包まれて暮らす。
熱環境を考慮し、室外の型板ガラスの複層ガラスと室内のポリカーボネートの間には空気層があります。その空気層は室内に光を充満させ、天空光の微細な変化が光の濃淡となってそのまま現れます。都心部における、大自然の中とは違った、周辺環境との新しい接し方を提案できたと思っています。
写真:阿野太一 |