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第 97 回

“すまい手”のコトバ(言葉)から(2)

一級建築士
八田 創

 前回、「すまい手のコトバ」の大切さについてお話しいたしました。今回は“すまい手”のコトバが実際にどのように生かされたかを実例を挙げながらご紹介しましょう。

コトバその1:「キッチンに閉じ込めないで」

 老夫婦のリフォーム事例です。“すまい手”は閉じ込められたような薄暗い台所で長年苦労されていたのでリフォームを機にキッチンを明るく開放的にしたいと要望されました。ここで注意したのは「閉じこめないで」という“すまい手”のコトバ。オープンキッチンでは明るく開放的にはなりますが行き止まりがあっては「閉じ込められた」から解放されたことにはなりません。ですからここでは行き止まりのない回遊型のキッチンを提案しました。また、奥様は高齢のため、キッチンに手摺を望まれました。しかしキッチンに手摺を設ければ狭くなってしまいます。そこで、キッチンと同じ高さのテーブルをキッチンへ組み込みました。そうすることで、行き止まりがなくキッチンの周りをぐるっと伝い歩きする事ができる回遊式となったのです。

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コトバその2:
「キッチンは開放的にしたいけど見えすぎるのはイヤ」

 開放的なキッチンは多くの女性が望むところ。これまで「閉鎖的なキッチンにしてください」と言われたことは一度もありません。しかしながら、キッチンは料理を行う作業場という性格を持つ以上、いろいろなものが置かれます。そして、作業性を考えた物の置き方をしていたとしても、それを見られるのを好まない“すまい手”からのコトバ「見えすぎるのはイヤ」が今回のポイント。通常、カウンター式オープンキッチンとした場合はカウンター部分は開放的となり、カウンターの高さを調節する事で手元が見えないようにすることはできます。しかしコンロ周りだけは油の飛びを考慮して壁になりますから、急に閉鎖的になってしまいます。そこでこの壁に奥様の目の高さでガラススリットを設けて、コンロ周りであっても視線の抜ける部分を作りました。このスリットによってリビングからはもちろん、キッチンからも見えすぎないようになり、閉鎖感も解消されることとなりました。小さな工夫ですが効果は大きかったようです。

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コトバその3:「機能的な壁にできないかなあ」

 リフォームの場合、構造的に取ることのできない壁があります。しかしどうせ工事するのであれば取ることはできなくても生かすことはしたい。そして練り出された“すまい手”のコトバは「機能的な壁」。機能を持たせるべき壁はキッチンとリビングを仕切る壁でしたから可能な限りの開口を施し、収納と飾り棚を兼ねた装飾、そして延長するテーブルを併せて壁に仕込むこととなりました。壁の仕上げもまわりの壁とは色も仕上げも異なるものにして、壁自体が一つの間仕切り家具に見えるような造りにしています。またこちらの住まいではクローゼットの背板が寝室でのヘッドボード兼アクセントウォールとなる仕掛けもしました。もちろん、“すまい手”のコトバである「機能的な壁」からの発想です。

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コトバその4:「健康的なあったかい家はできますか?」

 以前は養蚕業を営んでいた古い民家の改装をした経験を持つつくり手から相談を受けました。その家には床下に大きな空間があり、そこの空気が家の空調の役割を果たしているようなので、これを応用して今の住宅に生かせないだろうかと。そこで“すまい手”のコトバとして良く耳にするフレーズ「健康的なあったかい家はできますか?」をテーマに、つくり手と共に専門家も招きいろいろと研究しました。その結果、安い深夜電力を使って床下に熱を溜め、昼間はその熱を放熱(輻射とも言います)させて24時間家中を暖めるシステムを作りました。放熱ですから風を起こしませんので埃も立ちません。また、家中が暖かいためヒートショックを軽減しますので健康的です。このシステムは現在では「BEシステム」として商品化されました。

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 モノづくりは楽しいものです。でもその先にある、欲しい住まいの事を考えるのはもっと楽しいはずです。その想いを「すまい手のコトバ」に是非とも入れてください。

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プロフィール

八田 創(一級建築士)

1969年愛知県生まれ。日本大学理工学部卒業。東環境・建築研究所を経てイタリア政府給費留学生としてミラノ工科大学へ留学。
帰国後に八田創建築研究室を設立。家具デザインから集合住宅の設計まで、住まいに関する事を幅広く手掛けている。2009年より(株)ウェル東京支社長を兼任。
現在、(社)東京建築士会理事および青年委員会委員長
東京都被災建築物応急危険度判定員

八田創建築研究室
株式会社 ウェル
協力:(社) 東京建築士会

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