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住まいと暮らしの専門用語ナットクコラム

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HOUSING COLUMN
第 117 回

【暮らしに手間を掛けてみよう】

 皆さんは幼少時代に育った住まいに思い出はありますか。自分や兄弟の背丈が伸びると柱に印をつけたなどは、多くの方々が経験しているのではないでしょうか。大人になって、実家に里帰りしたときに柱の古い印を見て子供のころを懐かしく思い出したり、あるいは結婚して新しい家族が増えたときに、そんな印をもとに家族の記憶の話をした、なんていう方もいらっしゃるかも知れません。住まいの経験は人それぞれなので残念ながら実家はとっくに建て替えてしまったとか、引越しばかりで思い出のある住まいはどこにもない、という方もいらっしゃるかも知れません。では、ご自身がこれから新しい住まいを持つとしたらどんな思い出の残る住まいにしたいと思いますか?

「手間のかからない建材」は便利ですが…

 私が子供の頃に住んだ住まいの思い出は、歪んだガラス窓から見えた隣の大きなビワの木の風景です。戦後まもなく建てたであろう古い木造住宅の窓は木製で、はまっているガラスは現在のガラスのように平らではなく、気泡の混ざった少し歪んだガラスでした。でもその味わいあるガラスが子供の頃大好きで、自発的によくガラス拭きをしたのを覚えています。磨けば光る、どんどん味わいを増すような住まいは、手を掛けることによって家族と一緒に成長していく住まいだったと思います。
 先日、ある設計者は、最近の建て主から設計ヒアリングの際に「手間がかからない住まいにしたい」という意見が多く出ると話していました。破れない障子紙や、傷がつかないよう最初から強力にコーティングされたフローリングなど、機能的な建材が豊富な昨今では、建主ばかりではなく設計者も便利にそれらを使ったり、提案したりしています。しかし、年末の障子の張替えはいわば家族の恒例行事で、普段は破ると怒られる障子をバリバリと破くのは楽しく、また張替えた後の真新しい障子も清々しく、今思えば障子の張替えは自分たちで出来る住まいのプチリフォームだったのです。破れない障子紙は確かに便利ですが、障子の張替えを通した家族のコミュニケーションの時間がなくなる分、少し生活を味気ないものにしているような気がします。

暮らしに「手間を掛ける」とは

 「食育」がずいぶん浸透したと同様に「住育」も広がりつつあると感じます。住まいを通して子供達を教育するのはさまざまな考え方があると思いますが、住まいづくりに携わる現在の自分の立場で振り返ると、障子張りやガラス磨きなど住まいのメンテナンスを通して家族のコミュニケーションを図る、自分の大好きな住まいの部分を大切に手を掛けるなど、暮らしに手間を掛けた体験は、ひとつの住育と呼べるのではないかと思います。
 以前設計を担当した住まいで、フローリングのワックスがけを施工者に頼まずに、建物が引き渡された後に家族と設計者、そして家族の友人で手分けをして行ったことがありました。私は小学校1年生になるお嬢さんと一緒に彼女の部屋のワックス掛けをしたのですが、初めて自分の部屋を持った喜びもあいまって、彼女は一生懸命床を磨いていました。このときの体験は彼女にとって、とても楽しかったイベントとして記憶に残ったようで、その後も1年に一度、ワックス掛けをしてからホームパーティという家族の行事が習慣化されたそうです。子供達にとって暮らしに手間をかけるお手伝いは時に「仕事」ではなく「遊び」になるのだと思います。私のガラス磨き同様、彼女の記憶の中にフローリング磨きが住まいの思い出となり、大人になって家を出るとき、あるいは自分の住まいを持つときに、ふとあのときの体験を思い出してくれると良いなと思っています。

*

最後に

 今年6月に施行された長期優良住宅法では、耐震性や可変性など物理的に住まいを長く持たせることと同様に、いつまでも住み続けたいという住まい手の精神的な部分も重要視されています。
 携帯電話やインターネット、パソコンなど、ここ10年くらいの間に様々な便利なものが日常的になり、私達の生活もだいぶ変化したと思います。それらの機器類を活用することによって生み出された時間の一部でも皆さんの暮らしに手間を掛けることに使ってみてはいかがでしょうか。ガラスや床をみがく、障子を張り替えてみる、ウッドデッキの塗り直しをしてみる、昔は一仕事だったそれらの暮らしに手間を掛けている時間は、案外ゆったりと流れ、良い気分転換になるかも知れません。そして自分達で手間を掛けた住まいは家族と共に成長し、末永く棲み継ぎたくなる愛着ある住まいへと成熟してゆくのではないでしょうか。

[住まいのナビゲーター 田中 哉子]

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