- 第 10 回 住まいのナビゲーター:三坂ゆう子さん[後編]
建物や街を楽しみながら
「住む力」を養う
長く愛される家づくりのためには、一人ひとりが住まいへの感性=「住む力」を高めることが大切です。「住む力を養うには、ちょっとした発想の転換ができれば十分」と言うナビゲーターの三坂ゆう子さんに、楽しみながら「住む力」を養うコツを伺いました。
おすすめは美術館。
まずは好きな空間を意識してみて
「住まいに対する感性を養うというのは、空間の魅力を感じる力を養うということ。そのためには、まずは魅力的な空間に足を運び、そこに身を置いてみるといいですね」と三坂さん。そのために、住まいづくりナビセンターでは、名建築を集めた「江戸東京たてもの園」の見学会なども実施していますが、気軽に訪れることのできるスポットとして三坂さんがおすすめするのは美術館です。
「古くからある建物も、近年つくられた建物も、美術館には優れた建築家による魅力的な建築が数多くあります。美術館に行ったら、絵や展示品だけでなく、ぜひ建物をじっくり見てみてください。細部の装飾を見るのもよし、また、建物の壁と壁との距離や天井の高さをどう感じるかとか、座る場所によってここは落ち着くけれどここは落ち着かないとか、まずは感じてみることが大切です。そのうち、なぜこの場所は落ち着くのかといった疑問が芽生えてきたりします。そうした問題意識を持って他の空間も体感することで、空間に対する感性が研ぎ澄まされてくるのです」
また、建物でも街並みでも、「ここは好き」と思った空間を写真に撮ってみるのも有効、と三坂さん。
「写真に撮ることは、好きな空間を自分で選択していくことになります。それを積み重ねていくと、自分が好きな空間の輪郭がはっきりしてきますし、建物や街並みに対して敏感になって、いい建物、いい街並みに住みたいと思うようになります」
街中が遊び場に。旅行の楽しさも倍増
建築や街並みに興味を持ち、見る目が養われてくると、これまで気づかなかった街歩きのおもしろさが味わえると、三坂さんは言います。
「もう、街中が遊び場です(笑)。ごく普通の街並みでも、見るところがたくさんあって飽きることがありません。また、旅行にしても、ヨーロッパの古い寺院やお城を見ても、京都の町屋を訪れても、建築に興味のない人に比べて何倍も楽しめますよ」
さらに建築には、小説を読み解くような楽しさもあります。たとえば、ある瞬間に窓から差し込む日差しが部屋を明るく照らすのを見て、「設計者はこの時間帯の光の角度を計算して窓の位置を決めたのか」と感心したり。建築を通して、何十年も何百年も前の人々と対話ができるようになるのです。
住まいの感性も次世代へ引き継ぎたい
こうして日頃から住まいに対する感性を養っておくと、いざ自分の住まいをつくるという時も、住みたい空間のイメージがはっきり持てるので、住まいづくりがスムーズに進みます。
「住まいづくりが始まると、いきなり間取りなど現実的な話になりがちで、そもそもどんな住まいにしたいかなど考える機会を逸してしまい、不本意な家づくりになることが多いものです。『どんな家に住みたいですか』と聞かれて、考えずとも『ああいう家がいいな』とパッと言えるぐらい、普段から建物や空間に関心を持っていることが、一生に一度の住まいづくりで後悔しないためには必要なのではないでしょうか」
楽しみながら建築に親しみ、「住む力」を身につけた人が建てた家が、また次世代の感性を養っていく──。「住まいのナビゲーター」がそうした良い連鎖を起こすきっかけになればと、三坂さんは願っています。

- 三坂さんが好きな建築のひとつが、「江戸東京たてもの園」(都立小金井公園内)で見た前川國男邸。「30坪と決して広くはありませんが、シンプルでリッチ、人を迎え入れてくれるような豊かな空間構成。とても太平洋戦争のさなかに建てられたものとは思えません」。
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「建築に対する目が養われるようになると、見るところが増えて旅行もぐんと楽しくなります」と三坂さん。日常の街歩きでも、発見したり感動したりすることが多くなるとか。
ナビゲーターfile5
三坂ゆう子さん
- プロフィール
- 「住まいのナビゲーター」の立ち上げに参画、ナビゲーターの役割を定義するなど中心的な役割を果たす一方、自らも住まいづくりのナビゲーションにあたる。設計事務所を主宰、5人家族。趣味は読書。特におすすめの1冊は「12世紀イングランドの大聖堂の建築を巡る波瀾万丈の物語を描いた、ケン・フォレットの『大聖堂』。建築に興味を持っていただくきっかけとしてもおすすめです」。



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