住まいのことナビ
home
>
Housing Column
>
住まいと暮らしの雑学探検隊
>
大家族の城・中国の土の家
第 9 回
大家族の城・中国の土の家
《坑地震、防風、防火、防盗、冬暖夏涼》
●土は身近で優れた建築材なのです
世界には“土”で造った家が数多く見られます。土には、暑い昼間は外気の温度を吸収して内部を涼しく保ち、寒い夜は壁から熱を放散し暖かさを作り出す力があるからです。風や音を遮断する性質にも優れていて、木の住宅が多いわが国でも、壁だけは土を用いる事が少なくありませんでした。
世界の民家に関する資料を眺めてみると、土の家は木や石があまり手に入らない、乾燥した地域で多く造られてきた事がわかります。砂漠のような砂ばかりで土の少ないところでも、雨期の川べりに残った土に家畜の糞を混ぜれば、簡単に建築材を作る事ができるのです。また、人間は土を木枠に入れて天日に干すことによって、煉瓦を作ることをあみだしました。これによって、猛獣や外敵から家族を守ることができる堅牢な住まいもつくれるようになったのです。たとえ何も材料がなさそうな場所でも、人間は知恵と工夫で快適かつ安全で安心な住まいをつくってきた、その代表のひとつが土の家なのです。
●中国に巨大な円形土楼住宅あり!
さて、そんな“土の家”の中でも、特に異彩を放つのが、中国福建省の山間部に今も残る巨大な環状の民家です。《客家土楼》と呼ばれるこの家は、大きなもので直径61メートルの外周に、高さ14メートルの土壁が円形にそびえたち、土壁を保護するために、瓦葺の軒が4メートル近く張り出しています。窓は上方にいくつかあるのみで、外観は住まいというより、「お城」と言ったほうがふさわしいかもしれません。この大きさに対し、入り口は大門ひとつ。“敵は一歩たりとも入れないぞ”という雰囲気です。
中に入ると、大きな中庭が出迎えてくれます。外観とは対照的に、各階に設けられた木製の廊下が内向きの開放的なバルコニーのように中庭を囲み、石畳が敷かれた中庭には家畜がゆったりと過ごしていたり、先祖を奉る・祖堂・と呼ばれる神聖な建物なども配置されていたりして、とても温かな雰囲気に包まれるのです。中庭を包むようにして建つ3~4階建ての土の家が、住居スペース。多くて50家族、少なくても10家族以上が暮らしています。
クリックすると拡大表示されます。
●なぜ、お城のような家になったのか
この巨大な円い住居は、“客家(はっか)”と呼ばれる漢族がつくった大家族の集合住宅です。彼らは北方の騎馬民族に圧迫され、黄河中流域から安住の地を求めてどんどん南下してきた流浪の民。それゆえに、盗賊や他民族から襲われることが多く、信頼できる血族が結束して家族を守る、という暮らしを徐々につくりあげていったと言われています。福建省のまだあまり人が住んでいない山間部に定着したのが十二~三世紀のことで、地元の人には「客人=他の地域からの人」と言う意味で“客家”と呼ばれました。客家人は長い時間をかけて険しい山地に棚田を切り開き、わが身を守るために、大家族制度と城塞のような土楼住居を築きあげていったのです。環状の住まいにしたのは、部族が戦いに際し円陣を組む体勢をヒントにしたからと言われています。しかし治安が安定してからは、U形やコ形の開放的な住居群も作られていて、今は円形だけでなく、様々な形の集合住宅があります。住まいの形の変化から、人々の歴史を見ることが出来る一例です。
●大家族が力をあわせてつくるコーポラティブ・セルフビルド住宅
住居の主な構成は、1階が台所、2階が貯蔵庫で、3・4階が寝室などの居室になっており、1家族は原則として縦に重なった1・2・3・4階を住居としています。円形住宅ゆえに外側から内側に向かって若干すぼんでいる扇形の個室(約十平米)というのが特徴。しかし、家長、老若の区別なく血族全員が分け隔てなく暮らそうという考え方で、部屋の大小はあまりありません。大家族の住まいながら、各家庭の自立は尊重し、襲い掛かって来る敵に対しては一致団結するという暮らし方なのです。合理的であり、かつ情もあるこの考え方には、私たちが2世帯住宅や集合住宅で暮らす際に役立つヒントが隠されていそうです。
客家土楼は、土の家の中でも最も進んだ版築構法で建てられています。これは、鉄筋コンクリート作りに似ていて、鉄筋の代わりに竹筋を通し、ユニットになった小型型枠に土を入れて、固まったら枠をはずし、この木枠を移動させながら構築していくという方法です。ちなみに土壁の下部の厚みは1.5メートルもあります。これは4階建ての構造をしっかり保つため。
外周壁、住居単位の界壁は土造ですが、中庭側の壁、床、屋根の主構造は木造です。2・3階の床板は厚み15~20cmの板1枚で仕上げられていて、そのまま天井となっています。素朴でわかりやすい構造にすることで、経験豊富な熟練の人を中心に大家族一人一人が力を合わせて造ることが出来る家にしたのです。いわば客家土楼は、一種のコーポラティブ・セルフビルド住宅なのです。
●漢字の意味、とてもよくわかります
ある研究者によれば、客家土楼の楼主にこの住まいの特徴を聞いたところ、次のように説明してくれたそうです。
“瞭望台土楼的軍事防御施設、四層土楼、一楼的厨房二楼的粮倉三四楼的臥室”
“坑地震、防風、防火、防盗、冬暖夏涼”
この漢字とこれまでご案内してきた内容をみれば、もうおわかりですよね?
Copyright (c) Sumanavi Center All Rights Reserved.