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第 10 回
極寒に最適? 雪の家の秘密
 《エスキモーの短期滞在型住宅》


●今はほとんどの人が普通の家に住んでいます

 今回の世界の民家探検は「エスキモーの雪の家」です。(エスキモーという呼称は差別的表現であると言われていましたが、近年ではそうではないという意見も多く、彼ら自身が自らをそう呼ぶという事実をふまえ、当コラムではそれに準じることにします)
 さて、エスキモーというと、雪をドーム状につみ上げた家に一年中住んでいて、毛皮のコートを着て、生肉を食べ、犬ゾリに乗って猟をするというイメージがあるのではないでしょうか。
 残念ながら、今はホンダのエンジンがついたソリに乗り、木造のしっかりした家で生活する人がほとんどです。家は1年中ポカポカに暖房(石油)されていて、室内ではいつもTシャツ姿でくつろいでいるのが普通なのだそうです。しかし、あの雪の家を全く利用しないわけではありません。冬季のアザラシ猟などの際は、猟場での短期滞在用としてつくることもあるとか。今でも利用されるということは、それだけよく考えられた住まいなのです。

●雪の家には窓もある! でも寒くないの?

 エスキモーの雪の家、その名もイグルー(=家という意味)。その造りかたには知恵と工夫がいっぱいです。
 まずは、建材となる雪ですが、どんな雪でもいいという訳ではありません。粉雪や柔らかすぎる雪はダメ。だからといって氷状では加工がしづらいので、適度な密度に押し固められているものでなくてはいけません。イグルー造りは、この雪の選択にかかっていると言っても過言ではないのです。
 いい雪が見つかると、長いナイフ(骨や象牙、または金属製)を使って、長さ90センチ、幅50センチ、厚さ15~25センチぐらいの直方体のブロックに切り出します。熟練のエスキモー達は、これをすばやく、かつ目測で、ほぼ正確に切り出すそうです。
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 建設の第一段階は、基礎としてこのブロックを直径4メートル50センチほどの円形に並べます。次にこの基礎の上面を斜めに削り傾斜をつけ、その上に雪のブロックを次々と螺旋状に積み上げていくのです。各ブロックをわずかに内側に傾けていくので、次第に円周が狭められてドーム型の小屋が組みあがっていきます。3メートルほどの高さのドームが最頂部を残して完成すると、小屋の底辺近くに出入口を切り、最後のブロックがはめ込まれます。その後、出入口の上に光を取り入れるための窓もつくります。窓なんか開けたら寒いと思ったら大間違い。ちゃんと窓ガラスをはめるのです。もちろんガラスは使いません。何を使うのでしょうか‥‥。思いつきましたか? そう、板状の氷を使うのです。いい氷がないときは、猟で捕ったアザラシの腸(半透明の膜状)を利用するそうです。

●北極グマがのっても壊れないイグルーの秘密

 なるほど、と思うのはそれだけではありません。このドーム状の雪小屋には様々な付帯施設がつけられます。一番大切なのは、背の低いトンネル。これは外からイグルーへ入るまでの入口通路。また部屋と部屋を繋げる廊下として作られることもあります。寒気が入りにくいように低くつくるのですが、注目は床面を必ず各部屋より30センチほど低くつくるという事。これによって床をつたう冷たい隙間風さえも部屋に入ってこないようにしているのです。入口にはアザラシの毛皮を使った暴風幕を張り、夜は冷え込むので、通路においておいた大きな雪のブロックを入口前に置いて寒気が入ってこないようにします。
 母屋のほかに、ドーム状の食肉長期貯蔵庫・食料貯蔵庫・道具や衣類の倉庫なども建設し、トンネルでつなげ、工事はいったん終わります。
 ここからが、厳しい寒さを上手に利用するイグルーの凄いところです。建物が出来たところで、すぐさま室内で鯨油のランプを灯し、人間は戸外に出て、開口部は入口も含めてすべて閉ざします。するとランプが室内を暖め内壁の表面が解け始めます。壁面の余分な水分は、ドーム状なので床にたれずに壁をつたってゆっくり下降し、ブロックとブロックの継ぎ目やあまり湿っていない部分に浸透していきます。壁全体に水分がいきわたったところで、出入口とドーム頂上に換気口をあけ、冷気を一気に部屋に入れると、冷やされた内壁の水分が瞬時に固まり一体化。生活するうちに自然とこれが繰り返されるので、イグルーは北極グマの体重にも楽々耐えられる堅牢な住まいになるのだそうです。

●自然に優しい、極寒に最適の家

 イグルーを研究したある学者はこんな風に言っています。
 「このイグルーが素晴らしい性能を持っているのは、その形と材料のおかげだ。半球状のドームは最も少ない表面積で済み、冷たい冬の風に対して雪は最大の抵抗を示す。さらにドームは少ない材料で大きな体積を包み、その内部は熱と明かりを出す一つのオイルランプで効果的に温められる。しかもドーム状ゆえに、高いところほど狭くなるので、暖気は部屋全体にいきわたりやすくなっている。極地の冬に対して、これ以上の家を探すことは難しいだろう」
 イグルーの素晴らしさはもう一つあります。あくまでこの家は猟をするための冬季用短期滞在住宅。太陽が建物を溶かすほど暖かくなれば、イグルーは捨てられ、アザラシの皮のテントなどにかえられます。でも思い返してみてください。建材は雪や氷と毛皮。すべては大地に戻るものばかりなのです。
 自然に優しく、自然の力を上手に使った家、イグルー。雪の家には、私たちの住まい作りにも役立つ知恵や考え方がいっぱい詰まっていました。
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