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Housing Column ハウジングコラム

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第 28 回
 住まいのヒミツ
【あかりタイムスリップ (3)】


今回も「あかり (照明)」タイムスリップです。時代は、江戸末期、そして明治へ!


●日本の“あかり”の種類が全部そろった
 江戸も幕末ともなれば、松明や篝火をはじめ、ひで鉢、灯台、灯籠、行灯、燭台、提灯など、従来の日本の“あかり”の殆どのモノが出揃ったと言われています。いわば、“あかり”の種類の最も多い賑やかな時代だったのです。とはいえ、蝋燭はやはり高価なものなので、庶民の住まいでは、火皿に芯を入れて灯す種油の“あかり”が主流。長時間使う場合は、こまめに給油しなければならず、これが案外面倒でした。そこでさらなる便利な“あかり”を住まいの中へと、日本人はとてもユニークな2つの灯火器を発明します。それは、もしも文明開化が訪れなければ、一世を風靡したのではないかと言われる画期的なモノでした。

●栄光無き大発明?
  幕末科学が生み出した「鼠灯台」と「無尽灯」


 それが「鼠灯台 (ねずみとうだい)」と「無尽灯 (むじんとう)」です。
「鼠灯台」
 外見の最大の特徴は、支柱の途中に火皿がつけられ、支柱の最上部に大きな「鼠の人形」がついているところです。その鼠はまるで上から火皿の油を狙っているような姿勢をしています。さらに、火皿を支柱に支える部分にはまるで親鼠についてきたかのように「子鼠の人形」もくっついています。
 なんと、この「鼠灯台」は、火皿に油が少なくなると、最上部の「親鼠の人形」の口先から油が自動的にぽたり、ぽたりと落ちてきて、給油されるというものなのです。しかも、ちょうどいい量で自動的に給油を停止。長時間使用に、油を継ぎ足す手間がいらないというものでした。
 その仕組みをご紹介しましょう。まずは、火皿に適量の油を入れますが、実はこの火皿の底には穴が開いています。火皿と支柱とつなぐ枝の部分には油が通る管が仕込まれており、注がれた種油は支柱内 (子鼠の付けられた所)に設けられた「油溜め」という場所にも流れます。一方、大きな鼠の人形は中が空洞になっていて予備の油をたくさん入れておける油槽、つまりタンクのようになっています。お腹の部分に開いた穴からここにも適量の種油を入れ、親指で穴を塞ぎながら速やかに支柱に差し込みます。ちなみに鼠の口はこれだけでは油が出ないように設計されています (油にかかる重力よりも表面張力と負の空気圧の方が重いために)。ところが、火を灯すとやがて火皿の油量が減少、これと共に支柱内の「油溜め」の油量も減ります。実は子鼠があしらわれたこの「油溜め」部分に上向きの“空気孔”が空けられていて、油量が減ると空気が入るようになっているのです。空気は支柱内の管を通って親鼠のお腹の中へ! すると空気圧の上昇によって、親鼠のタンク内の油が口から“ぽたり、ぽたり”と火皿に給油されることになるのです。火皿に油が充分注がれれば「油溜め」にも流れ、空気孔を油が閉じてしまい、空気の流れが止まる。すると給油もストップされる、という訳です。

「無尽灯」
 一方の無尽灯は、幕末のからくり師「田中儀右衛門」がつくり、世に遺した発明品です。その特徴は、既にオランダから輸入されていた空気銃の原理を取り入れた、『圧縮空気の力学と粘着性の強い種油』の特性を巧みに生かしたものでした。簡単にいってしまえば、最近の水鉄砲のようにハンドルを操作して圧縮空気をため、その圧力を下部の油槽に送ると、空気圧と粘着力のある種油のおかげで、上部までゆっくり油を送り、あかりを長時間点灯しておけるというものでした。
 この二つは、どちらも明るさは変わらないモノの、後世の技術立国日本を思わせる、科学的な機構を取り入れた素晴らしい灯火器であり、当時は日本の“あかり”文化の主役になると予想する人もいたようです。しかし、開国、文明開化というまばゆい時代がすぐに訪れてしまい、その主役の座には西洋からやってきた「洋燈 (ランプ)」がつくことになるのです。

●まるで昼間のような明るさ? ランプ大普及

 洋燈について明治初期書かれたこんな記事があります。
『異人館‥そこは夜分になれば、灯台にギヤマン (ガラス) の上履きかぶせたものが置かれ、その明るき事は、毛一本も見誤ることながないほどだ。また屋敷の門の上にもギヤマンにて製造したる行灯の如きものがあり、門の内外も昼間の明るさとかわらない。これは驚きだ』
 まさに洋燈の明かりは、「文明開化のあかり」そのものでした。まだまだ日本では少なかったガラスを上手に使い、芯糸を金属の口金でとめ、その長さを調整できるランプはたちまち憧れの“あかり”となります。でも当然、舶来品はとても高価で庶民が手を出せるモノではなく、日本家屋にも不似合いでした。そこで舶来ランプを見本に腕を磨いた職人が、あの温もりあふれる柔らかな美しさに包まれた日本特有の和製ランプをつくり、大普及することになるのです。西洋の真似だけでなく、これを上手に取り入れて、自分たちにぴったりの新たな文化を生み出してゆく‥。こういった上手な文化の融合は、あかりだけでなく、私たちが住まいや暮らしを考える上でも、とても大切なことかもしれませんね。
 
 ついに、次回はガス灯と電灯が登場。あかりの歴史が塗り替えられていく様子をご紹介します。

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