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第 32 回 住まいのヒミツ
【屋根タイムスリップ (3)】
古い民家の屋根と言えば、「茅葺き (かやぶき) 屋根」を誰もがイメージするのではないでしょうか。“茅葺き”は前々回ご紹介した通り、竪穴式住居の原始時代から最も広く用いられた屋根の作り方のひとつ。弥生時代を経て、稲作が普及すると藁がいっぱい手に入るようになりさらに茅葺きは全国的に普及していきます。あれ? それなら藁葺き (わらぶき) ではないでしょうか? 藁葺きと茅葺きはどう違う? さぁ、今回も屋根タイムスリップのスタートです! ●カヤって何? 言うまでもなく「茅葺き」とは“茅 (カヤ) の茎で葺いた屋根”のこと。広辞苑によれば、カヤとは「チガヤ・スゲ・ススキなどのイネ科草本の総称。屋根を葺くことに用いる」とあります。中でも最も多く屋根に用いられたのが“チガヤ”。弥生時代から飛鳥・奈良の時代の日本を想像してみてください。当時は自然のままの川原や日当たりのよい乾いた原野が広がっていました。チガヤは全国のそんな場所に自生する多年草で、古の日本人はこれまでの経験でこれを枯れる寸前に刈り取り、よく乾燥させて使えば、水を弾く強い屋根材になると知っていたのです。しかも例えば東北地方なら、その地域に自生しているものが風雪に強く、最もその地域の気候に適していました。茅葺きに限らず、地元産の建材と気候の関係を考慮することは、現代の住まいづくりにとっても大切な要素のひとつです。 |
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●カヤ40年、麦わら15年、稲わら7年 一方、稲作の普及で稲藁 (いなわら) が大量に手に入るようになりました。これも屋根材として使い始めましたが、カヤとは決定的に違うことに気づきます。カヤには適度な油分があり、雨を弾きますが、藁は水を吸う一方だったのです。ある地域では『屋根の耐久年数は、カヤ40年、麦わら15年、稲わら7年』と言わるほどカヤと藁の差があるのです。実質的には、藁葺きは都市部などの「カヤ」が入手出来ない、量が足りない時の代用品として使われたり、母屋は茅葺きにして作業場や水車小屋などを安価な藁葺きにする、といったような使われ方をしたのです。 では、なぜ稲作の普及が茅葺きの発展とリンクしたのでしょうか。 ●縛る・縫う! 茅葺きに大活躍するわら縄 昔ながらの方法でカヤを葺いてみればわかります。ちょっとやってみましょう! まずは屋根を支える小屋組作りから。屋根タイムスリップ(1)でもご紹介しましたが、梁の上に扠首 (さす) と呼ばれる太い材木を手を合わせるように組む、いわゆる合掌造りが茅葺きの定番です。次にこの扠首の横方向に母屋桁を並べ、縦方向に垂木を並べます。茅葺きではどちらも主に竹を使用し、扠首に縄で縛り付けます。さらに、エツリと呼ばれる細い割竹を10~15センチ間隔で並べて縛り付け、カヤが屋内に落ちこないように格子状の骨組みを作ります。これを「屋根かご」と呼びます。 さて、実は何気なく“縛る”とご紹介してきた『縄』こそ稲藁で作った縄なのです。カヤを葺くには、鉄の釘も木の釘も使いません。“茅葺きはわら縄で縫い上げるように葺いてゆく”のです。従って屋根一つに膨大な量のわら縄が必要。だから稲作普及と茅葺きの発展はリンクしていたのです。 |
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●軒先は雨水を受け止めて流す重要な場所 引き続き“茅葺き”を進めていきましょう。最も手間取る軒先から手をつけていきます。ちなみに茅葺き屋根の場合、雨は6センチしかしみ込まず、あとは流れていってしまいます。しかし軒先のカヤだけは、流れ落ちてきた雨を受け止めて水を外部に切ってゆく場所。それだけにたっぷり雨を吸い込みます。しかも端だけに風当たりもきつい。そんな過酷な条件に耐えうるような構造にしなければなりません。さらに、屋根を重ねるように葺いていくと、軒先の第一列目だけは重なりがなく、そこだけ急な勾配になってしまいます。そこで、茅葺きの屋根は軒先のみ厚い三層構造にし、滑らかに葺き上がるようにするのです。まずはそんな軒を支えるための「茅負 (かやおい)」と呼ばれる太い竹を横に渡して作業開始です! ●軒先の三層構造のつくりかた 第一層目は、軒の重量に耐えられる太くて丈夫なカヤか、逆にクッションになるような柔らかいカヤを選んで、1本目のエツリにかがり縫うように編み付けます。これが「軒付け」という最初の行程。次に、軒に厚みをつける行程である第ニ層目へ。ここは丈夫でなくても良いので、古い茅を使ったり、麦わらで代用したりします。二層目にも長い竹を横たえ (垂木またはヨコダケと呼ぶ)、屋根かごと縄で結び、カヤを葺いた後に、上から押さえ込む竹 (押さえ竹) を配し、挟み込むように固定します。第三層目は、軒の先端に当たる部分。別名「水切り」。その名の通り、屋根をつたって流れてきた雨水を軒先へと切る部位です。一番痛めつけられる場所だけに、ここには茎のしまった、曲がりの少ない最も良質のカヤを使用します。良質のカヤをしっかり束ねれば、カヤの隙間もなくなり、ここでしっかりと雨を受け止め、水を外へ流してくれるようになるのです。 さぁ、複雑な軒の作業を終えて、いよいよ、屋根の斜面へ。と、いったところで、今回はスペースが尽きてしまいました。次回は、茅葺き屋根のあの美しい稜線の作り方と、屋根のてっぺんにあたる「棟」の特徴に迫ります! |
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