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大工道具タイムスリップ (3)
第 44 回
住まいのヒミツ
【大工道具タイムスリップ (3)】
さて今回も、住まいづくりに欠かせない「大工道具」がテーマ。開国、明治維新と激動の時代が訪れると、大工道具も変化を遂げていきます。最初のキーワードは「ネジ」。さぁ、近代の大工道具ワールドから、タイムスリップとまいりましょう!
●ネジの文化がなかった日本
開国、明治維新が訪れると、有力者が次々と洋風建築を取り入れ、建設量も増えて建築界は大変な活気となりました。腕自慢の大工がよりよい道具を求めるようになり、それに応じて道具鍛冶も、機能の改良に力を注いだのです。この時代に、今や当然となった「両刃鋸 (りょうばのこぎり)」や、「合わせ鉋 (あわせかんな)」が登場。建物も合理的に、そして道具もより便利になります。
ここで注目すべきは、「ネジ」の登場です。ネジは、日本の技術史の中で、江戸時代に鉄砲やからくり人形など、ごく限られた世界でしか使われていませんでした。つまり、建築においては「ネジ」という発想はほぼ無いに等しかったのです。螺旋の釘や木ネジがしっかりと木材をとらえ、逆に回さない限りとれないその仕組みは、当時の職人にとっても目から鱗。早速、大工道具にも取り入れられ、鉋 (かんな) の刃の留め具や、罫引 (けびき=平らな木材の表面に線を引く道具) に使われ始めます。ネジを外して調整出来る道具の登場です。「ネジ」は、住まいづくりや建築にとっての、まさに文明開化だったのです。
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●廃刀令で、刀鍛冶は道具鍛冶へ転身
維新で身分制度が変わり、下級武士たちは地位と刀を捨てざるをえず、農家や商人へと転身しました。しかし、思うようにいかず苦労した元武士の記録が数多く残っていますが、転身を余儀なくされたのは武士だけではありませんでした。そう、廃刀令によって刀の需要がなくなった刀鍛冶にとっても時代は決断を迫ってきたのです。廃業か、それとも細々と刀鍛冶を続けるか。そこで彼らが目を付けたのが、大工道具を鍛える「道具鍛冶」への華麗なる転身です。この時期、大工道具はますますその数を増やし、腕自慢の大工は「女房を質に入れても」と言われるほど、良い道具を求めていました。そんな建築界の要求と、「伝統の技をもって、魂を込めた道具を作れる」という思いが、多くの刀鍛冶を道具鍛冶に転身させました。そしてこの時代、名工と呼ばれる道具鍛冶が現れるようになるのです。
●名工の道具に惚れた大工の江戸熊
そんな名工と大工のエピソードをひとつご紹介しましょう。
大正時代「江戸熊」と呼ばれる大工がいました。腕は確かだが職人気質で、筋の通らないことは大嫌い。何かあるとすぐ江戸弁の啖呵を切って喧嘩をしてしまうものだから、東京にいられなくなり、大阪に流れて職人をしていました。一本気な生き方こそ職人と考えていた江戸熊は、大阪で神棚に飾られた「千代鶴是秀」という元刀鍛冶の名工がつくった道具に出会います。それは芸術的とも言われる大工道具で、思わず背筋がピンとしてしまうような威厳を持っていました (現在でも千代鶴是秀作の大工道具は著名)。千代鶴は江戸の名工で、やはり頑固一徹、一本気な職人。自分が納得しなければよしとせず、生涯寡作でした。これに江戸熊が惚れ込んでしまうのに時間がかかるはずもありません。しかし、江戸熊はその名工と一面識もありませんでした。そこで江戸熊は、自分の思いと注文願いを代筆屋に頼んで何度も送り、名工の信頼を得るために戸籍謄本まで同封したといいます。
●江戸熊に応えた千代鶴の思い
これに感動したのが、千代鶴です。注文の大入鑿 (おおいれのみ=建前あとの木の組み合わせ作業に使う) を15丁鍛え上げ、自ら汽車賃を工面して夜行列車で大阪まで届けに行きました。この千代鶴という名工は、いつも注文主に直接手渡しして評価を自分で確かめていたのです。
資料によれば、当時の大工の手間賃は、通常1円50銭。一方、大入鑿 (おおいれのみ) は、並品10本1組で3円50銭。しかし千代鶴のものは大変高価で1組100円もしました。江戸熊の注文は15丁。しめて150円になります。莫大な借金をしても名工の道具を欲しいと江戸熊は思ったのです。
大阪駅で、江戸熊と千代鶴は感動の初対面を果たします。その時、お互いの貧乏ぶりがわかり、思わず笑ってしまったとか。その後、2人の親交が深まったことは言うまでもないでしょう。
そんな話はもう今ではない、と思ってしまうかもしれませんが、昔と変わらぬ思いを心に持つ職人さんや、名工顔負けの創意工夫が凝らされた現代的な道具も少なくありません。
私たちが、住まいづくりをする際に、そんな素敵な人たちと出会えたり、信頼関係を築くことも大切なことかもしれませんね。
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