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Housing Column ハウジングコラム

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第 56 回
 住まいのヒミツ
 家具タイムスリップ (3)
【椅子】

 「家具タイムスリップ」3回目のテーマは椅子 (イス)。今やイスやソファに腰掛ける生活は当たり前ですが、イス文化が日本に最初に入ってきたのはいつ頃だったのでしょうか。

●日本で最初のイスの記録は平安時代

 イスは「椅子」と書きますが、「椅」の字には中国語で「よりかかる」という意味があり、和語がないので、当初はやはり中国から椅子文化が入ってきたと考えられています。
 日本で最初のイスが記録に登場するのは平安時代。朝廷や内裏で使われていました。ただし、イスが使えるのは、天皇・親王・中納言以上 (大臣・大納言・中納言)。つまり地位の高い人の座る場所の象徴として使われていたのです。では平安時代以前にイスは日本になかったのでしょうか。

●埴輪がイスに座ってる! 古墳時代からあったイス


 実はイスの埴輪がいくつも出土していて、古墳時代後期には既に存在したと言われているのです。当時はまだイスという言葉はなく、「胡床 (こしょう)」と呼ばれていました。これも中国から入ってきたもので、脚がX型に交叉したイスのことを指します。埴輪を眺めてみると、使い方、使う人物がなんとなくわかります。ひとつは、シャーマン (呪術・宗教的職能者) や兵士と思われる人物が腰掛けており、狩や戦争の際に指揮者が使っていたと考えられます。もうひとつは、背もたれつきの胡床の上で、趺座 (ふざ=あぐらをかく) していて、身分の高い人が権力の象徴として座ったものです。座具といっても、腰掛けるより趺座することも多かったようです。これが平安時代に折りたたみ式のイスを限定して「胡床」と呼ぶようになり、近世になってからは戦場で使われることが多くなり、「床几 (しょうぎ)」(武将が戦陣で座るイス) という呼び名に変わっていったのです。

●高い地位をさした言葉、「あぐら」


 古事記や日本書紀によれば、日本ではこれらの座具を「あぐら」と呼んでしました。「あ」は足のこと、「くら」は倉や鞍と同根の言葉で、「高いものの上に乗る」という意味があります。
 実は、「位 (くらい)」という言葉も、くらの上に居る人=位、になったと言われているのです。
 イスの上であぐらをかく…これは、本当に地位が高い人しか出来ない姿勢だったわけです。

●庶民のイスは社交場になった縁台・床几


 庶民に「腰掛ける」という文化が浸透しはじめたのは江戸時代。庭や路地において、涼みや月見になどに使う細い台「縁台 (えんだい)」からでした。木製と竹製があり、上面はスノコ状に作られているものが多いのが特徴です。ちなみに、関東地方ではこれを「縁台」と呼び、関西地方では「床几 (しょうぎ)」または「床 (ゆか)」と呼んでいました。
 これに似たものが、茶店などに使われていた台です。こちらは木製で、縁台より幅が広く、上に緋毛氈 (ひもうせん) などを敷き、腰掛けるだけでなく、上にあがって座れるようにしてありました。

●わが国の大衆的なイスの始まりはストリートファニチャー

 なぜ、このようなものが大衆にも浸透したかといえば、やはり他の家具同様に、都市の発展があり、庶民に余裕が出来たからです。この頃になると外食産業も発達し、もっとも気楽な社交場として寺社近くの茶店が流行しはじめました。野外で傘を立てた茶店や、小屋がけの店も登場し、縁台の上に毛氈をかける演出が登場しました。それ以後、ちょっとした料理などを出す店も店先や庭に、場所も寺社だけでなく、花見や川原の夕涼みなど、各種の物見遊山の場所にも縁台を設けるようになったのです。日本における庶民のイス文化のルーツはストリートファニチャーにあるといえるかもしれません。

●なぜ日本の住まいではイス文化が浸透しなかった?


 幕末から明治維新にかけて海外文化が流入し、洋風のイスがやっと日本に入ってくるわけですが、なぜそれまでイス文化は日本の住まいに根付かなかったのでしょうか。
 日本では寝殿造りや書院造が流行し、住まいに入る時は履物を脱ぎ、畳に座るというライフスタイルが浸透しました。畳の回でもご紹介したとおり、高温多湿の日本では、畳の生活がとても心地よく、とても便利だったのです。学術的に解明されたわけではありませんが、畳文化の発達がイス文化を浸透させなかったのではと考える研究者もいるようです。
 
 またまた余談になりますが、イスと畳に関してこんな面白い話があります。江戸時代に長崎で、ある武士がイスに座った外国人と相対しました。ところが、畳に正座している自分はなんだか見下ろされているようで面白くない。そこで、畳を何段も重ね、目線を同じにしたとか。もちろん、畳に腰掛けるのではなく、礼儀正しく、畳の上に正座して相対したそうです。
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