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第 60 回
【夏情緒ある涼やかな暮らし (2)】
江戸の風流を楽しむ夏

 今回は、多彩な風物詩に彩られた江戸の夏から、粋で風流、そしてちょっとユニークな“涼”のとり方、夏の楽しみ方をご紹介したいと思います。

●江戸の“涼”なインテリア
 江戸の昔、豊かな自然があふれていたかと思いきや、その当時から江戸の町はすでに人口密集地。広々とした敷地に建つ地方の民家のように、風通しのいい家に住むというのはなかなか望めるものではありませんでした。とはいえ、風流な江戸っ子たちのこと。家の中では、涼を呼ぶ粋なインテリアを楽しんでいたのです。江戸の人々に人気のあった夏のインテリアとはどのようなものだったのでしょうか。
[簾 (すだれ)]
夏の日差しをやさしく和らげてくれる簾。外からは目隠しになり、家の中に風も運んでくれるという優れた機能もさることながら、江戸の人々は、この簾が風に揺れる姿を眺め“涼”を感じていました。揺れやすくするため、今の簾よりも短く作られていたそうです。風鈴に風の音を聞くように、揺れる簾に風を眺める。なかなか風流な感性だと思いませんか?
江戸で生まれた「江戸簾」は、伝統工芸品として現代に受け継がれています。清々しい竹の簾に夏のそよ風を眺め、涼を感じてみるというのも粋な涼み方かもしれませんね。

[金魚玉]
夏の風物詩“金魚”は、江戸の町でも大人気。寛延元年 (1748年) には「金魚養玩草 (きんぎょそだてぐさ)」という飼育のマニュアル本が出版されるほどの熱狂ぶりでした。ビニールのなかった江戸時代には、金魚を「金魚玉」という小さなガラスの器に入れて縁日から持ち帰り、軒下に吊るして泳ぐ涼しげな姿を楽しんだそうです。
ちなみに東京江戸川は金魚の日本三大産地の一つ。7月下旬には、2万5千匹もの金魚が集まる「金魚まつり」(下記参照)が開かれます。ひらひらと泳ぐかわいらしい金魚をガラスの鉢に泳がせて、涼しげな様子を眺めるのも楽しそうですよね。

[変わり朝顔]
“釣り”“骨董品”と並び、江戸の三大道楽の一つに数えられていた“園芸”。長屋住まいの庶民たちも、鉢植えの花を競って路地裏に飾り楽しんでいたといいますから、その通りはさぞきれいだったのではないでしょうか。その中で一大ブームとなったのが“変わり朝顔”。自然に起こる遺伝子の変化により、花の色や形、模様などがさまざまに変化して現れるもので、とても朝顔とは思えないものばかり。江戸の園芸家たちはこの珍しい朝顔作りに熱中していたそうです。
墨田区の「向島百花園」では、夏の間「江戸・変化朝顔展」(下記参照)が開催されています。名前の通り朝に咲く花、朝顔。ちょっと早起きをして、朝の爽やかな空気の中、江戸の人々の創意工夫に触れる個性豊かな朝顔を楽しんでみてはいかがでしょうか。

[稗蒔 (ひえまき)]
最後にご紹介するのは、今では見られなくなったちょっと楽しいインテリアです。“稗蒔”は、小さな鉢に稗を植えて青田に見立て、かかしや農夫、白鷺などを飾り付けた庶民的な盆栽。青々とした葉が風になびく爽やかな田園風景を、蒸し暑い長屋に持ち込んで涼感を愛でていたのです。大都会の江戸らしい、ユニークなアイデアですよね。この稗蒔、鮮緑色の芽が涼しげな「絹糸草」という植物でつくることができるので、お気に入りの鉢に好きなものを飾り付けて、オリジナルの稗蒔を創ってみるのもおもしろいかもしれません
簾 (すだれ)
金魚玉
変わり朝顔
変わり朝顔
●江戸の“涼感”ファッション

 祭りや縁日を彩る夏の風物詩、浴衣。平安時代、貴族が蒸し風呂で着ていた「湯帷子 (ゆかたびら)」がその起源で、これが江戸時代に入り綿の普及とともに庶民にも広がっていきました。銭湯文化が花開いた江戸の町では、湯上がりに着る下着のようなものとして普及し、その後夏に着る着物となったのです。当時、下着だった浴衣を着て町を歩くというのはなかなか風変わりだったはず。浴衣をおしゃれな夏のファッションに変えたのは、まさに江戸の人々の粋な洒落っ気だったんですね。このユニークなセンスは浴衣の柄にも表れていて、クモやムカデ、ミミズといったグロテスクな生き物から、たんす、たらい、ハサミなどの道具類まで、思わず首をひねってしまうような模様が描かれた浴衣もあったそうです。また、浴衣は毎年買い替えるもので、2年続けて同じ浴衣は着なかったといいますから、おしゃれにもこだわりがあったのでしょうね。
 今も浴衣はちょっとしたブーム。色も模様も華やかになった現代の浴衣を着て、楽しんでみてはいかがですか。涼しさを身にまとい、カラコロと下駄の音を響かせて散歩に出かければ、いつもとはちょっと違う心地いい時間を過ごせそうですよね。


●風流な自然に “涼”を愛でる


 いつの時代も、自然の風景や音に人は心癒されるもの。江戸の人々ももちろん例外ではなく、四季折々にその風情を楽しみました。暑い夏の盛りに楽しんだ、風流な江戸の娯楽をご紹介しましょう。
[虫聴き]
東京にも武蔵野の豊かな自然があふれていた時代。江戸の人々は夕暮れ時になると、涼しげな虫の声を聴きに好んで出かけました。とはいえ、その当時の江戸は人口世界一の大都市で、町の中心部に虫の鳴くような草原を見ることはありません。人々は、郊外にある虫聴きの名所「道灌山(現在のJR西日暮里周辺)」あたりまで足を伸ばしていました。また、江戸の町ではこの時代すでに、ひぐらしや蛍、鈴虫、松虫、こおろぎといった風流な虫が、籠に入って売られていたというから驚きです。この籠を市松模様の粋な屋台で売り歩いた「虫売り」は、江戸の夏の風物詩となっていました。都心にいても季節の風流を楽しむ。その暮らしぶりには思わず感心してしまいますよね。
現在、東京で虫聴きを楽しむのは難しくなりましたが、前述の「向島百花園」では毎年「虫ききの会」(下記参照)も開かれているので、夕涼みがてら涼しげな虫の音を聴きに出かけてみてはいかがでしょうか。

[蓮見]
花見といえば春の桜が思い浮かびますが、江戸の人々は夏にも盛大に“蓮”の花見を楽しんでいました。蓮見の名所は上野の「不忍池」。池の周りにはたくさんの茶屋が並び、名物の“蓮めし (蓮の若葉と一緒に炊いたごはん)”や田がくが売られ、花見に集まる人々で朝早くからにぎわっていたそうです。近所からのんびり涼みにやってくる人もいれば、繁華街だった上野には出店や見せ物も多かったので、遊びがてらに花見を楽しむ人もいました。
夏になると、今も不忍池には池を埋め尽くすほどの蓮の花を見ることができます。江戸情緒あふれる「蓮見茶屋」(下記参照)もオープンしているので、のんびり蓮を眺めながら夏の風情を愛でる、そんなひとときを過ごしてみるのもいいかもしれませんね。
蓮の花

 今回は、多彩な知恵と豊かな感性で暮らしを楽しんだ、江戸庶民の粋な夏の過ごし方をご紹介しました。暑い夏、涼をとることにも楽しさを見い出した江戸の人々の粋な心意気。ちょっと意識を変えれば、現代の暮らしにもその心意気は生かせるはず。例えばいきいきと育つグリーンを部屋に置いてみたり、お気に入りの浴衣で夕涼みの散歩に出かけたり、季節の花見を楽しんだり。季節を五感で楽しむ、ちょっとした視点と工夫があれば、暑い夏をもっと楽しく、心地よく過ごすことができるのではないでしょうか。

<本文中に紹介したイベント>
第35回 金魚まつり
日程:平成19年7月21日 (土) ~ 22日 (日)
場所:行船公園
江戸・変化朝顔展
日程:平成19年8月5日 (日) ~ 9月8日 (土)
場所:向島百花園
※朝顔の展示は午前中のみ
◎虫ききの会
場所:向島百花園
※詳細未定
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