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Housing Column ハウジングコラム

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第 66 回
味わいのある日々
~飛騨高山に探る暮らしのAji~
美味編

 日々に息づく豊かな趣きを紹介した前回に続き、飛騨高山に暮らしの味わいを探る第2回。
 今回は、飛騨に伝わる“美味”の数々をエピソードとともにお届けします。“味”は、地域の歴史や暮らしを色濃く映すもの。そこに秘められた物語を知り、美味しさと一緒に味わえば、日々の食卓をちょっと味なものにする素敵なヒントが見つかるかもしれませんね。

●朴葉 (ほうば) が豊かに香る味噌


 澄んだ空気と清らかな水に恵まれた山国・飛騨は味噌造りに適した地といわれ、古くから盛んに醸造が行われてきました。厳しい寒さの中でじっくりと熟成させた、風味豊かな味わいが飛騨味噌の特徴なのだそうです。
 味噌はその原料によって米味噌、麦味噌、豆味噌と種類が分かれていますが、最も親しまれているのは全生産量の80%を占める米味噌。大豆と米こうじから造られるもので、風土に根ざしたその土地ならではの味噌が各地で造られています。飛騨で多く造られている味噌は大豆と米こうじをたっぷりと使った“米味噌 (こうじ味噌)”。赤味噌を造る醸造所も多いのは、江戸のころから東西の文化を柔軟に受け入れてきた土地ならではの特徴かもしれませんね。
朴葉味噌
 ちなみに、飛騨を代表する味「朴葉味噌」はこうじ味噌を使った郷土料理。晩秋のころに落ちる朴の大きな枯葉を塩水に浸して干し、皿代わりに。この上に甘辛い味噌をたっぷりぬって、ネギやショウガ、椎茸などを加えて焼くのですが、朴葉の香りが味噌にしみこんで、なんとも風雅な味わいです。厳しい冬、凍った漬け物を朴葉にのせて囲炉裏の火で溶かし、味噌をからめて食べたのが始まりともいわれ、戦国時代には兵糧としても重宝されたそうです。

●赤かぶ漬けは「めしどろぼう」


 高山の街を流れる宮川沿いで開かれる賑やかな朝市。鮮やかな紅色に漬かった「赤かぶ漬け」も毎朝この市に並び、地元はもちろん観光に訪れる人々にも親しまれています。
 赤かぶ漬けに使われる「紅かぶ」は、飛騨の伝統野菜。日本各地で生産されるかぶの品種は約80種もあり、東西文化の境界線ともいわれる“天下分け目の関ヶ原”でその特徴も見事に分かれています。西日本では中型から大型、東日本では耐寒性に優れた小型の品種が多く生産されているそうです。
 雪深い山間の地に暮らす飛騨の人々は、秋に穫れた赤かぶや白菜などの野菜を漬け込んで保存し、寒さ厳しい冬を乗り切っていました。寒暖の差が激しいため、漬け物がとても美味しく漬かるそうです。今ではすっかり飛騨名物となっている漬け物も、古くは厳しい自然とともに暮らす人々の、知恵と工夫から生まれたものだったんですね。
 ちなみに、赤かぶ漬けの見事な紅色は自然が創りだすもの。赤かぶを塩漬けにしてじっくりと熟成させると、始めは皮だけの紅色が乳酸発酵によって次第に中まで染まっていくのだそうです。ほどよい酸味のさっぱりとした味わいは、この熟成によって生まれるもの。胃腸にもいい発酵食品なんですよ。
紅かぶ

●高山の街は美酒の宝庫


 美味しい味噌や漬け物ができるのと同じように、飛騨のきれいな水と空気、厳しい寒さは、酒の醸造にもまたうってつけ。特に高山は銘酒の産地として知られ、8軒の醸造場が今も伝統の酒造りを続けています。軒先に杉玉を吊る酒蔵の店構えは、どこもどっしりとした町家造り。独特の趣きと老舗の風格が漂う蔵元を訪ね、地酒めぐりを楽しむのもおすすめです。
 きりっとした辛口が特徴の飛騨の酒。飲み口のしっかりした厚みのある酒は燗で飲むのが美味しいのだそう。温めて美味しいお酒は、寒さの厳しい土地だからこそ生まれた味なのかもしれません。これからの寒い季節に、じっくり味わいたいお酒ですね。
 もう一つ、飛騨地方の有名なお酒に「どぶろく」があります。どぶろくは、お米に米麹や酒粕に残る酵母などを加えて簡単に作る素朴な濁り酒。世界遺産に登録される村、白川郷はこのどぶろくで知られる地でもあります。村では、毎年秋になると盛大な「どぶろく祭り」が開かれます。約1200年前から続くこの祭りが“天下の奇祭”ともてはやされるのは、氏子たちの仕込んだ自家製どぶろくが神社の境内で振る舞われるから。江戸時代、村人が稗や粟を持ち寄ってどぶろくを仕込み、五穀豊穣を祈って神様に捧げたのが始まりとされています。明治に入り酒税法が施行されましたが、祭礼用の酒は申請すれば無税という特例があり、氏子たちは胸をなでおろしたそうですよ。飛騨は美味しいお酒の宝庫。個性豊かな味わいを冬の料理と一緒に楽しめば、気持ちも体も、ちょっとあたたまりそうですよね。
高山の町並み

●山国で美味しい“ぶり”はなぜ?


 新年を「サケ」で迎えるか「ぶり」で迎えるか。これは東西で分かれる習慣ですが、飛騨は“ぶり派”。昔はとても高価な魚で、祝い事があると、この日ばかりはと人々がこぞって食べた最高のごちそうでした。このぶり、飛騨や信州では「飛騨ぶり」として知られています。山国の名がついた魚というのもちょっと不思議な気がしますよね。これは古くから交通の要衝であった高山に、江戸時代、富山湾でとれた寒ブリを保存用に塩漬けして運んでいたため。この塩ぶりは、歩荷 (ぼっか) や牛馬の背に乗せられて高山に運ばれ、ここで荷札を改めて信州へと運ばれていきました。険しい野麦峠を越えて飛騨から運ばれた塩ぶりは信州の人々にとって大変なごちそうだったことから、「飛騨ぶり」という名が付いたのだそうです。ぶりが運ばれた富山から信州までの道は、今でも「ぶり街道」と呼ばれて親しまれているんですよ。それほど、人々のブリに寄せる思いは深く、大晦日の夜に塩ぶりを食べる喜びは今もしっかりと受け継がれています。
 ところで、飛騨や信州でそれほどこの塩ぶりが好まれたのは、山国で魚が貴重だったからというわけではないんですよ。塩漬けの魚は、時間を置くとますます甘みや旨味が増すのだそうです。保存の知恵で塩漬けにし、十数日をかけて山国へ運ばれたことが、本当に美味しいごちそうを作っていたんですね。
 
 2回に渡ってご紹介した飛騨高山の味わい深い暮らし、いかがでしたか?厳しくも豊かな自然ととともに暮らし、そこに育まれた文化を今に伝え、大切に守る人々。伝統の技や祭り、味は、ただきれいだったり美味しかったりするだけではなく、そこには多くの歴史や人々の想いがつまっているんですよね。飛騨に限らず、それぞれの土地には風土に根付いた豊かな文化や味がたくさんあります。もちろん、ここ東京にも。
 そんなことを意識してみると、日々の暮らしがちょっと楽しく、味わい豊かなものになるのかもしれません。
ぶり街道
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